パトレイバーの世界観

パトレイバーの世界観について、改めて触れたいと思う。それは近未来であるとか、レイバーが実用化されているとかそういうことではない。もっと観念的な世界観だ。この作品世界は4つの象限に分けられる。

1) 汚い大人の世界(篠原一馬、藤倉、徳永、平光)
2)誠実な大人の世界(後藤、榊、実山)
3)80年代バブル東京(内海、企画七課)
4)イノセントな子供の世界(バド)

 

1)コミックス版パトレイバーの背景には、通奏低音のように汚い大人の世界(高度資本主義)が横たわり、または壁となって立ちはだかっている。主人公たちはこの世界を砕くことも、突破することもできない。それはシステムとして特車二課の世界にも組み込まれており、彼ら自身から引き剥がすこともできない。なぜなら、元をたどればイングラムもこの世界からやってきたからだ。その意味において、特車二課とこの世界との戦いは基本的に発生しない。それは登場人物各々の心の中で行われ、また処理されるべき戦いだ。

 

2)彼らはバブル東京(高度資本主義)から完全に逃れられないことは承知しながらも、そこに無反省に埋もれることをよしとせず、一定の距離をとって東京湾13号埋立地に集っている。当然、泉野明や遊馬もここに所属している。

 

3)子供のまま大人になってしまった企画七課(元光画部)が遊ぶ世界だ。そこでは全てが相対化され善と悪、仕事と遊び、大人と子供、虚構と現実の区別がない(だから企画七課はゲーム開発を行っていたのである)。東西冷戦下における逆説的な政治的安定、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた当時の経済的状況、政治的イデオロギーの衰退。1980年代という時代がこの世界の存在を許した。そして最初の汚い大人との戦いが成立しない以上、特車二課第 二小隊と衝突するのは、この内海の世界になるだろう。

 

4)おそらく全ての登場人物がこの世界からやってきたはずだが、それが劇中で描かれることはない。それはすでに日本内には存在せず、「海の向こう」にあるのである。バドは、そこから80年代のバブル東京にやってきた。そして、そこで徹底的にスポイルされることになる。

 

以上がコミックス版パトレイバーの大まかな見取り図だろう。そしてこの世界における野明のミッションは3)を倒しつつ1)を振り切って大人になることだ。