Vガンダム 25話「敵艦と敵地へ」

「大尉は変わろうと必死なんだ」

カテジナの台詞のとおり、この25話では、今までどことなく頼りないおぼっちゃん風だったクロノクルが「大人の男」に成長するために努力する姿が描かれる。ウッソと異なり、クロノクルとカテジナは努力と成長の価値を素直に信じている。もちろんこれは非常に大事なことだ。私にもこの焦りはよく分かる。ある程度歳をとると「いい加減、大人にならないとな…」なんて思うものだ。アニメを観ながら思うことではないかもしれないが。

さて話を戻すと、このクロノクル、大人の男になるべく努力をしてはいるのだが、その動機はどうやら「女(カテジナ)」である。これはよく分かる話で、いまどき男の子が成長したいなんて思う動機は、大抵女の子にモテたいと思っているときだ。これはZガンダムにおけるジェリドや、逆襲のシャアにおけるギュネイも同様だ。Zガンダム以降、富野は「男を成長させるのはランバ・ラルのような男ではなく女だ」と思っている節がある。ただしジェリドもギュネイも、このクロノクルも女の子にマッチョなところを見せようとして失敗し、結局ひどい目にあってしまっていることには注意しておきたい。

またクロノクルにとって大人になるということは、結局のところ立派な軍人になるということである。だが、これはリガ・ミリティアや他の人々にとっては単に迷惑なだけだ。当たり前かだが社会Aと社会Bでは、大人になるということの意味が異なる場合がある。例えば昭和の戦間期に、この国において尊敬されていた「立派な軍人」も他所の国に行けば全く違う存在だったはずだし、もちろん現代にワープしてこられても、私たちはちょっと困ってしまうはずだ。現代は多様な価値観が混在しており、大人の条件が曖昧で常に揺れ動く社会だ。こういう不安定な社会では視界を広く持ち、手探りをしながらゆっくり大人になる必要があると思う。だが、生真面目なクロノクルはここで焦ってしまったのかもしれない。彼はマリア主義という単一の価値観の許で一気に大人になろうとするのだ。