Vガンダム 32話「ドッゴーラ激進」

「あんなマシンで本気なんだ!?」ウッソが驚くのも当然で、この32話に搭乗するMAドッゴーラは日本昔話に出てくる「竜の子太郎」のパロディだ。バイク戦艦と同じか、それ以上のトンデモメカで思わず脱力してしまうが、脚本、作画、演出共に高いレベルでまとまっている力作回だと思う。これ以後のVガンダムは富野が全面に出てきたのか、スタジオがまとまって来たのか、一気に面白くなってくる。30話以降で比較するなら、このVガンダムTVシリーズ中では一番面白いと個人的には思う。

この32話のキーパーソンは2人の駄目な大人、ブロッホとマーベットだ。モヒカン刈りのブロッホは、一見して分かるように男性ホルモンのカタマリみたいな男だ。彼の苛立ちの原因は、ランバ・ラルドズル・ザビのような「男たち」のものだった戦場が、今や女子供に牛耳られてしまっていることにある。彼は戦場を再び男たちの手に取り戻そうと、MAドッゴーラに搭乗して出撃するのだが、結局は「女子供の集団」であるリガ・ミリティアに撃破されてしまう。Zガンダム以後の富野作品に見られる、マッチョイズムの挫折が最も顕著に現れているエピソードだ。

マーベットは、オデロとトマーシュの指導も兼ねて、モトラッド艦の追撃作戦を立案する。彼女が焦って戦場に飛び出した理由は、戦死したオリファーのことを忘れるためだが、何故か彼女は子供たちまで連れ出してしまう。精神的に不安定だったマーベットは「保護者」としての役割を果たすことで、自分自身を立て直そうとしていたのだ。だが作戦は失敗に終わり、マーベットは惨めにも子供たちに慰められながらリーン・ホースに帰投することになる。彼女は子供を上手く指導できなかったし、そもそも「誰も大人の指導なんて必要としていなかった」のだ。

このVガンダムは、自分自身を安心させるために「子供を必要とする大人」と、そんな「大人を必要としない子供」の物語でもある。振り返ってみれば、地球で出会った漁師のロブも自分を安定させるために、ウッソを必要としていた一人だった。そんな大人たちの欺瞞を指摘するかのように、マーベットを励まそうとする子供たちと、子供のように身体を丸めて眠るマーベットの姿を描いて、この32話は幕を閉じる。