Vガンダム 33話「海に住む人々」

「世界が変わってゆくところを見たい」。この33話におけるカテジナの台詞だ。かつてのガンダム・シリーズの主人公たちの想いでもあるだろう。だが、よく考えてみればウーウィッグ特別区に住むプチブルジョアだったカテジナにはこんな台詞を吐くための切実な理由が無い。彼女の抱える不幸はせいぜい両親の不仲と、友達がいないという程度のことであり、その解決のために世界を変える必要なんて全然無いはずだ。

カテジナの苛立ちの理由の一つはこれだろう。彼女には革命に身を投ずるだけの十分な動機や根拠が無いのだ。だから彼女は革命の根拠を自分自身の怒りや悲しみではなく、マリア主義に求めてしまう。逆にいえば、それなりに満たされた環境で育ち、たいした不幸を背負っていないことこそが彼女の不幸だ。だから彼女は地球の裏側の人間の不幸まで、進んで背負い込み、誰の役にも立たない苦悩に自己陶酔することになる。

光都市アンダーフックの「マリア教信者」たちもまた、具体的な不幸を背負ってはいなさそうだ。しかし、だからこそカテジナ同様、彼らは不幸なのかもしれない。日常生活がそれなりに豊かで満たされているからこそ、自分の不幸「感」の原因を何処に求めていいのか分からない人、というのは多いのではないだろうか。貧困層の多そうなカサレリアではなく、豊かな都市においてこそカルトな宗教が蔓延っている、というのはそれなりにリアルな設定だと思う。