Vガンダム「カテジナ・ルース」

富野作品においては、少年を成長させるのが父性であり、退行させるのが母性です。この両者のせめぎ合いこそが、ガンダムシ・リーズの中心的なモチーフだと言ってもよいでしょう。

しかしながら、このVガンダムという作品においては、母性が父性を圧倒しており、最終的に、ウッソも大人たちも母性の中に取り込まれてゆきます。その意味でこの作品は、主人公たちがある種の「現状肯定」と「引きこもり」を選択する物語です。おそらくこれは、当時の富野由悠季の気分でもあったのでしょう。

しかしカテジナだけが「それ」に逆らいます。彼女が、強い父権を求めてウーィッグの街から出ていくからこそ、Vガンダムという物語は成立するのです。劇中では、ある種の狂人として描かれるカテジナですが、しかし、もしかすると彼女だけが正気だったのかもしれません。


カテジナは作家の創造したキャラクターですが、それにもかかわらず、おそらくは作家の意図すら超えて、この物語にダイナミズムを与えています。その意味においても、やはりカテジナは「主人公」と呼ぶに相応しいキャラクターであり、彼女の存在こそが、Vガンダムを稀有な作品としているのではないでしょうか。