廃棄物13号(後)(もう一つのイングラム)

イングラムと廃棄物13号のバトルシーンを眺めていると、廃棄物13号がレイバーに見えてこないだろうか?レイバーの装甲を着込んでいるのだから当然かもしれない。

しかし、なぜ13号にレイバーの装甲を被せる必要があったのか?シナリオの都合上、イングラムリボルバーカノンから身を守る必要があるからか?しかし、そもそも13号への火器の使用は制限されていたはずではなかったか?

 

この疑問に回答するために、ここで一つの仮説を立ててみたい。作者は廃棄物13号を、一種のレイバー、すなわち「暴走したイングラム」として描こうとしたのではいだろうか?そう考えると、イングラムと廃棄物13号の間に、次のような共通点が見えてくる。

父の力である:イングラムの父は篠原一馬であり、廃棄物13号のそれはニシワキ・セルを発見した西脇順一である。
国家を経由している:イングラムは警視庁に配備され、廃棄物13号は米軍の生物兵器として開発された。
女性に育てられる:イングラムは泉野明、廃棄物13号は西脇冴子によって、育てられる。

 

これらを整理すると、廃棄物13号のエピソードは次のように理解できるだろう。

廃棄物13号とは「暴走した父の力」だ。それは父、西脇順一の力であると同時に、国家、すなわち米軍と企業組織によって奪われ、ねじ曲げられた力でもある。父の娘(西脇冴子)は父の力を奪い返し、世に解き放つために廃棄物13号に(母としての)歪な愛情を注ぐ。だがそれゆえに廃棄物13号には「父の倫理」が宿ることがない。そこにあるのは「歪んでしまった父の力」だけだ。

 この廃棄物13号と激突し、それを打ち倒すのは第二小隊のイングラムである。だが、しかし、イングラムもまた13号と同じ「暴走した父の力」になりうる可能性を秘めているのではないだろうか?その暴走が押しとどめられているのは、それが髪を切った西脇冴子、すなわち泉野明と熊耳武雄(職業倫理を優先した女性たち)によってコントロールされているからではないのか。

こう考えると、廃棄物13号の死がグロテスクに描写された理由が分かる気がする。なぜなら、それはもう一つのイングラムの死であり、泉野明への警告だからだ。