Vガンダム「クロノクル・アシャー」

クロノクルは素直で真面目、その上に努力家だ。持ち前の優等生的器用さで、何でもそつなくこなしてしまう。だが社会が混乱すると、その煽りを真っ先に受けるのが、こういった優等生タイプではないだろうか。バラバラの指示が飛んできたり、対立する複数の価値観を目にすると、彼は混乱し、引き裂かれてしまう。

ザンスカールには、この優等生を上手く導ける大人がいなかった。最初の上司だったファラ・グリフォンは、その強引さで部下の反発を買っていた上、逆にクロノクルに助けられてしまうような人間だ。だが、クロノクルとファラの間に信頼関係が生まれた、と思った瞬間、彼女は更迭されてしまう。二人目の上司であるタシロもクロノクルの信頼を勝ち得ず、やはり、ファラと同じようにカガチによって粛清される。最後に師事したピピニーデンだが、彼は全く話にならない卑劣な男だった。とどめは「地球クリーン作戦」の中止だろう。「いったい全体、本国の連中は何を考えているんだ?!」。自分が全力を注いだ作戦が、何の前触れもなく無意味な行為と化してしまった、その屈辱と無力感。

それでもクロノクルはその場その場で自分に与えられた役割を果たしてゆく。生真面目な彼はそうすることしか知らなかったのだ。

その結果、彼はザンスカールの軍人、女王の弟、優しいお兄さん、ウッソのライバル、シャクティの叔父、そしてカテジナの男といった、多くの、しかも互いに矛盾する複数の立場に立たされてしまう。シャアのように自分勝手な男であればよかったのかもしれない。しかし、生真面目な彼は、どの役割も等しく引き受けてしまった。いや、指示(支配)されることに慣れ切った人間にはありがちだが、やりたいことなんて特に無い男だったからこうなったのかもしれない。

結局、彼はカテジナに煽られた後に「とってつけたような野望」を抱き、その結果ウッソに、いや、世の中というものに敗れてゆく。「貴様に何が分かる!女王マリアの弟にされ、カガチなどとも戦わなければならなくなった、この私の苦しみが!」